
社労士試験は、一般的なイメージと学習内容とが
かけ離れていることが少なくありません。
そのギャップによって学習がストップすることも
良くあります。
誰でも必ずあることです。
乗り越えましょう。
素人ではないのですから。
1:社会保障
社会保険労務士試験の学習範囲というのは、
日本国憲法25条の規定をもとに定められている
各種法令、通達等が中心となっています。
(1項が有名ですが社労士で重要なのは2項です)
日本国憲法第二十五条
すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
第二十五条第二項
国は、すべて の生活部面について社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
そして、社会保障とは
「自助」の実現を「共助」「公序」で補うものとされています。
少し長いですが厚生労働白書を一部引用します。
(法令、通達だけでなく、
厚生労働白書(だいたい500ページくらいあります)を始めとした
「白書、統計」も試験範囲です)
平成29年版厚生労働白書
国民生活は国民一人一人が自らの責任と努力によって営むこと(「自助」)が基本であるが、往々にして、病気やけが、老齢や障害、失業などにより、自分の努力だけでは解決できず、自立した生活を維持できない場合も生じてくる。このように個人の責任や自助努力のみでは対応できないリスクに対して、国民が相互に連帯して支え合うことによって安心した生活を保障することが「共助」であり、年金、医療保険、介護保険、雇用保険などの社会保険制度は、基本的にこの共助を体現した制度である。さらに、自助や共助によってもなお生活に困窮する場合などもある。このような自助や共助によっても対応できない困窮などの状況に対し、所得や生活水準・家庭状況などの受給要件を定めたうえで必要な生活保障を行うのが「公助」であり、公的扶助(生活保護)や社会福祉などがこれに当たる。
ポイントは
・「自助」が基本であること
・社会保険制度は「共助」を体現したもので、
「共助」とは国民が相互に連帯して支え合うものであること
の2点です。
なんとなく、国民年金や健康保険、雇用保険と聞く
と「公助」のイメージがありますが、
そうではない、ということです。
2:国民年金法の全額免除
国民年金は強制加入です。
無職だろうと借金抱えてようと、
会社や役所に勤めていない
20歳から60歳の間の人は、
とにかく保険料を払わなければなりません。
(例外もありますが、ここでは触れません)
保険料は一人当たり毎月17000円前後
(保険料改定率によって毎年変わる)です。
高額ですよね。
職がない時に毎月2万円近く無理やり引かれるとき
の恐怖感は、もう自殺しろと言われているような
ものです。
そのため、申請によって保険料を免除してくれる
制度があります。
(ただしその分、後で追納しない限り将来もらえる年金が減ります)
そのうちの一つが「全額免除」で、
以下のような過去問が出題されています。
平成30年国年択一式問6(改題)
ともに第1号被保険者である夫婦(夫45歳、妻40歳)と3人の子(15歳、12歳、5歳)の5人世帯で、夫にのみ所得があり、その前年の所得(1月から6月までの月分の保険料については前々年の所得とする。)が210万円の場合、申請により、その指定する期間に係る当該夫婦の保険料は全額免除となる。なお、法定免除の事由に該当せず、妻と3人の子は夫の扶養親族等であるものとする。
正解は×。
なぜなら、全額免除となる所得基準が、本問の場合「207万円」だからです。
210万円だとそれを越えているため、全額免除はされません。
(4分の3免除は可能です)
でも、設問の条件って、結構詰んでません?
「夫にのみ所得」があって、その額が210万。
手取りではありません。
それで奥さんと子供3人を養わなければならない。
これはもう無理ですよ。
単身者でも生活ぎりぎりです。
「法定免除の事由に該当せず」だから、生活保護の生活扶助ももらっていない。
残された道はもう一家離散、一家心中しか無いのではないでしょうか?
それなのに、保険料を払いなさいと国は迫ってくるのです。
腹立たしいですよね。
3:労災保険法の傷病補償年金、傷病年金
業務上または通勤による傷病が、長期間治らない場合に職権で支給される労災給付の一つです。
その条件に関する問題です。
平成21年労災択一式問5
業務上の傷病が療養の開始後1年6か月を経過しても治らず、かつ、その傷病により例えば次のいずれかの障害がある者は、厚生労働省令で定める傷病等級に該当する障害があり、傷病補償年金の受給者になり得る。
① 両手の手指の全部の用を廃したもの
② 両耳の聴力を全く失ったもの
③ 両足をリスフラン関節以上で失ったもの
④ 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
正解は×。
④はなんとなくダメっぽそうだし、
③のリスフラン関節ってのがよくわからないけど、
①、②はさすがにもらえるでしょ?
だって両手、両耳でしょ?
だから正解はマル、って考えたくなりますが、
ダメです。
傷病補償年金(業務上)、傷病年金(通勤)は
傷病等級3級以上、労働能力喪失100%に当てはまって
初めてもらえる可能性のあるものです。
①②③は障害等級4級、④は5級に該当するので
傷病等級に当てはまらず、対象外です。
両耳が全く聞こえなくなったら、
私は今の仕事ができなくなるので辞めなければ
なりません。
手話の勉強も始めなければなりません。
両手の指全部使えないって、想像するだけで
恐ろしいです。
今書いているこの文章もキーボードで入力できなくなります。
ちなみに「両手の手指の全部を失ったもの」は
傷病等級3級に当てはまるので対象になりますが、
どうしてここでラインが引かれているのかも納得できません。
これではほとんど「もらえない」って言っているようなものです。
4:労災保険法の認定基準
何が労災に当てはまるか、という基準については、
過去何度も試験に出題されていますが、
例えばこういった問題も出題されています。
平成30年労災択一式問1
認定基準においては、「極度の長時間労働は、心身の極度の疲弊、消耗を来し、うつ病等の原因となることから、発病日から起算した直前の1か月間におおむね120時間を超える時間外労働を行った場合等には、当該極度の長時間労働に従事したことのみで心理的負荷の総合評価を「強」とする。」とされている。
正解は×。
いや1か月に120時間も残業してればそれだけで十分労災でしょ?
と思いたいところですが、ダメです。
残業時間だけで判断する場合は、160時間を超えて初めて
総合評価「強」となります。
(160時間ジャストでもダメ。
160時間を超えていないとダメです。
社労士試験はこういう部分は非常にシビアです)
ひゃくろくじゅうじかんの残業・・・・
自殺するしか無くないですかね?
5:まとめ
こういった「常識的に理不尽な」決まりごとに対して不愉快な思いをすることは、
学習初期では本当に良くあります。
どう考えてもおかしいだろうこれは、と。
場合によってはそれで嫌になって社労士試験を諦める場合もあるでしょう。
しかしそれは、
社労士を目指す者として未熟に過ぎるから、
社労士として身に付けるべき知識に対して無知に過ぎるからです。
相当に学習を進めた後でないと、こういった感覚についての理解は深まりません。
社労士試験の学習の第一歩は、専門家たる視野の獲得です。
無知で呑気で無責任な素人感覚のままでは、
どれだけ学習を進めても、その時間は無駄に終わるでしょう。
>>次回【意外と知らない介護保険法の3つの基本】
>>前回【社労士試験学習の超基礎を3箇条に凝縮】
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