
具体的な学習の方法論です。
社労士試験は、その試験の形式と、
問われる知識のギャップが大きいので、
誤解したまま突き進むと
間違いなく大ケガをするので注意。
1:完全暗記 ≠ 機械的暗記
さて、学習を始めた時、まず目にするのは
以下の法律です。
労働基準法第一条労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。
労働基準法第一条2項この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。
労働基準法第二条労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである。
労働基準法第二条2項労働者及び使用者は、労働協約、就業規則及び労働契約を遵守し、誠実に各々その義務を履行しなければならない。
労働基準法第三条使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。
ふんふん、なるほどね~、とさらっと読み飛ばして
しまったそこのあなた!
はい、不合格決定!
この手のスローガン的なふわっとした法律。
特に具体的なことは何も言っていないように見える
法律。
この手の決まりが、どの法律でも最初に定められて
います。
例えば雇用保険法第一条は以下の通りです。
雇用保険法第一条
雇用保険は、労働者が失業した場合及び労働者について雇用の継続が困難となる事由が生じた場合に必要な給付を行うほか、労働者が自ら職業に関する教育訓練を受けた場合及び労働者が子を養育するための休業をした場合に必要な給付を行うことにより、労働者の生活及び雇用の安定を図るとともに、求職活動を容易にする等その就職を促進し、あわせて、労働者の職業の安定に資するため、失業の予防、雇用状態の是正及び雇用機会の増大、労働者の能力の開発及び向上その他労働者の福祉の増進を図ることを目的とする。
文章として特に難解なわけでもなく、
一読すればそのまま文章の内容は理解できるので
うんうん、そりゃそうだよね~、と
さらっと読み飛ばしてしまう内容です。
勉強を始めたばかりの初学者は、
この重要性を理解できません。
先に言ってしまうと、社会保険労務士試験に
おいて、この手の目的条文は超重要視
されており、どれかの科目の選択式で
高頻度で出題されます。
例えば以下の問題で、正確に回答できるでしょうか?
H28雇用選択式
雇用保険法第1条は、「雇用保険は、労働者が失業した場合及び労働者について雇用の継続が困難となる事由が生じた場合に必要な給付を行うほか、労働者が自ら職業に関する教育訓練を受けた場合及び労働者が子を養育するための休業をした場合に必要な給付を行うことにより、労働者の【 A 】を図るとともに、【 B 】を容易にする等その就職を促進し、あわせて、労働者の職業の安定に資するため、失業の予防、雇用状態の是正及び雇用機会の増大、労働者の能力の開発及び向上その他労働者の【 C 】を図ることを目的とする。」と規定している。
正解は
A 生活及び雇用の安定
B 求職活動
C 福祉の増進
です。
AとCを逆にしてしまうと、
その時点で2問も誤ってしまいます。
選択式において、こういう受験生なら誰でもわかる
基本的な問題で2問誤るということは、
ほぼ不合格を意味します。
うっかりあと1問間違ったら足切りですから。
AとCどちらも「・・・を図る」で終わっていますし
言葉の意味的にはどっちだって通じるだろ!と
言いたくなりますが、ダメなのです。
ちなみにBも、語句群を見ると、
「職業生活の設計」を容易にする
「職業の選択」を容易にする
「職業訓練の実施」を容易にする
等、どれでも意味は通じる
紛らわしいものばかりです。
これを「暗記問題」だと理解してしまうと
合格の道のりは遠のきます。
法律というのは、一言一句、意味があります。
文字通り一言一句、一文字に至るまで、
全てに根拠、理由、理屈、意図があるのです。
暗記は当然として、それ以上にその背景をしっかり
理解し、その一言一句に込められた意味を
くみ取り、その周りの言葉、他の法規との関連性を
正確に読み取って、正しい未知の答えを導き出す、
という過程の訓練、すなわち「完全暗記」こそが
社会保険労務士試験の本質です。
単なる機械的暗記でなんとか合格できたのは、
せいぜい平成24年度程度まででしょう。
難化する一方の現在の社労士試験では、
この過程の学習無くして、合格はあり得ません。
例えば以下のような問題は、
正しく回答できるでしょうか?
問題1この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、【 A 】は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。
問題2【 B 】は、労働協約、就業規則及び労働契約を遵守し、誠実に各々その義務を履行しなければならない。
入る語句は
労働関係の当事者?
労働者及び使用者?
それともそれ以外?
単なる機械的暗記止まりの人は、
「あれ?どっちがどっちだったっけ?」
と迷ってしまい、足切りで終わりです。
2:二重否定、三重否定
以下の問題を見てください。
H29徴収択一式
住居の利益は、住居施設等を無償で供与される場合において、住居施設が供与されない者に対して、住居の利益を受けるものとの均衡を失しない定額の均衡手当が一律に支給されない場合は、当該住居の利益は賃金とならない。
H28労一択一式
労働条件を不利益に変更する内容の労働協約を締結したとき、当該協約の規範的効力が労働者に及ぶのかについて、「同協約が締結されるに至った以上の経緯、当時の被上告会社の経営状態、同協約に定められた基準の全体としての合理性に照らせば、同協約が特定の又は一部の組合員を殊更不利益に取り扱うことを目的として締結されたなど労働組合の目的を逸脱して締結されたもの」とはいえない場合は、その規範的効力を否定すべき理由はないとするのが、最高裁判所の判例である。
択一式試験は個数問題が増えてきているので、
5肢のうち1つの正誤さえ判断できれば、
あとは消去法でなんとかなる、という問題は
どんどん少なくなってきています。
5肢全ての正誤が判断できて、ようやく1つの
貴重な正答を獲得できるわけです。
そんな中で、
このような独特の文章は要注意です。
結局、それぞれ〇か×か、どちらなのでしょう?
「住居の利益は、住居施設等を無償で供与される場合において、住居施設が供与されない者に対して、住居の利益を受けるものとの均衡を失しない定額の均衡手当が一律に支給されない場合は、当該住居の利益は賃金とならない。」
「労働条件を不利益に変更する内容の労働協約を締結したとき、当該協約の規範的効力が労働者に及ぶのかについて、「同協約が締結されるに至った以上の経緯、当時の被上告会社の経営状態、同協約に定められた基準の全体としての合理性に照らせば、同協約が特定の又は一部の組合員を殊更不利益に取り扱うことを目的として締結されたなど労働組合の目的を逸脱して締結されたもの」とはいえない場合は、その規範的効力を否定すべき理由はないとするのが、最高裁判所の判例である。」
裏の裏の裏は裏?
表の裏の裏は表?
オセロゲームか何かでしょうか?
勉強が進めばこの手の文章は読み慣れてきますが、
それでもこのように三重否定、四重否定で
書かれると、
「あれ?結局〇?×?どっち?」と迷います。
迷ってしまうと、だいたい間違えます。
このような文章は、
十分に経験を積んでいるという前提で、
さらっと一気に読み飛ばしてしまい、
体に染みついている勘で答えをはじき出したほうが
迷いなく判断できます。
3:正確な数字
以下の問題を見てください。
H21労災択一式
傷病補償年金は、業務上の傷病に係る療養の開始後1年6か月を経過した日の属する月の翌月の初日以後の日において次のいずれにも該当し、かつ、その状態が継続するものと認められる場合に支給される。①当該傷病が治っていないこと②当該傷病による障害の程度が厚生労働省令で定める傷病等級に該当すること
①、②の条件が正しい文章なので〇にしがち
なのですが、前半部に誤りがあるため、
正解は×です。
「1年6か月を経過した日の属する月の翌月の初日
以後の日」が誤りで、正しくは
「1年6か月を経過した日又は同日後」です。
このように、社労士試験の全ての分野において、
正確な数字を把握していないといけません。
数字というのは、文字通り数字の定数も意味します
が、数値を表現する語句も正確に覚えなければ
ならないという意味です。
「正確」というのも、文字通り正確を意味し、
「以上」「以下」
「上回る」「下回る」
「上回らない」「下回らない」
「~を越える」「~に満たない」
「~の日まで」「~の日の翌日まで」
「~の日の前日まで」
「~の日の属する月まで」
「~の日の属する月の前月まで」
「~の日の翌日が属する月の前月まで」
「〇か月が経過した日まで」
「〇か月が経過した日の翌月まで」
全て厳格に定められています。
そして最近では、文言の正誤だけでなく、
具体的にそれが何月何日に当たるのか
まで問われる問題が多いです。
こればかりは経験を積んで
できるようになるしかありません。
4:まとめ
ここで挙げた3つの項目は、
全て基礎の基礎です。
この段階でひよってしまっては話になりません。
学習を始めた以上、もはや合格するまで
降りることは許されません。
これから何度も出てくる言葉になるとは思いますが、
「読書百遍、義自ずから見る(あらわる)」
テキストや問題集を何度も見ていると、
不思議とわかる瞬間が必ず訪れるものです。
結局のところ、
大事なのは継続だということです。
>>次回【「常識的に」変だと思う、社会保障の決まりごと】
>>前回【社労士試験学習の眠気対策8項目を解説】
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