
罰則も社労士試験の試験範囲です。
しかも何かしらの科目で必ず出題されます。
それだけ実務上も重要だということですが、
中には量刑の重いものがいくつかあります。
さすがに死刑はないですが、
懲役は普通にありますし、
刑法より重く定められている罰則もありますので、
今回はそのうちのいくつかを紹介します。
社労士試験受験生に限らず、
日本国民である以上、
法律の罰則で「知らなかった」は
通用しません。
1: 労働基準法5条違反
まずは以下の過去問を見てみましょう。
平成27年度労基択一式問1
強制労働を禁止する労働基準法第5条の構成要件に該当する行為が、同時に刑法の暴行罪、脅迫罪又は監禁罪の構成要件にも該当する場合があるが、労働基準法第5条違反と暴行罪等とは、法条競合の関係(吸収関係)にあると解される。(正解は〇)
平成29年度労基択一式問5
労働基準法第5条に定める強制労働の禁止に違反した使用者は、「1年以上10年以下の懲役又は20万円以上300万円以下の罰金」に処せられるが、これは労働基準法で最も重い刑罰を規定している。(正解は〇)
そして労働基準法5条は以下の通りです。
労働基準法第五条
使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によつて、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。
「1年以上10年以下の懲役又は20万円以上
300万円以下の罰金」というのは、
刑法の暴行罪(2年以下の懲役若しくは
30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料)
脅迫罪(2年以下の懲役又は30万円以下の罰金)
監禁罪(3月以上7年以下の懲役)より重いため、
労基法違反の罰則のみが
適用されることになります。
暴行はもちろんのこと、脅迫等で精神の自由を
不当に拘束することでも、
労働を「強制」した時点でアウトです。
しかも罰則を受けるのは「使用者」なので、
「事業主又は事業の経営担当者その他その事業の
労働者に関する事項について、事業主のために
行為をするすべての者」が当てはまります。
「その事業の労働者に関する事項について、
事業主のために行為をするすべての者」とは、
人事部長や総務課長といった
実質的に一定の権限がある者は
すべて当てはまります。
さらに労働者派遣法44条によって
派遣労働者の派遣先事業主も対象です。
心当たりのある管理者の方は、
すぐに行為を改めましょう。
あまりにもリスクが高すぎます。
心当たりのある労働者の方は、
ある程度の事実関係を証明する証拠を揃えて
まずは各都道府県労働局の
相談コーナーを利用しましょう。
(例えば愛知県の場合は【 こちら 】。
展開によっては労基署、社労士、弁護士に
相談することとなります)
法律の罰則で「知らなかった」は通用しませんが、
その分「知っている」と、状況の展開が
全く異なるものになります。
2:労働安全衛生法55条違反
労働安全衛生法は、労働災害の防止のための様々な
規定を設けることで、
労働者の安全、健康の確保と
快適な職場環境の形成を促進することを
目的としていますが、最も罰則が重いのは
以下の規定違反です。
労働安全衛生法第五十五条
黄りんマツチ、ベンジジン、ベンジジンを含有する製剤その他の労働者に重度の健康障害を生ずる物で、政令で定めるものは、製造し、輸入し、譲渡し、提供し、又は使用してはならない。ただし、試験研究のため製造し、輸入し、又は使用する場合で、政令で定める要件に該当するときは、この限りでない。
これに違反した者は
「3年以下の懲役又は300万円以下の罰金」
です。
黄りんマッチは
あごの骨を溶かす骨壊疽
を引き起こし、
ベンジジンは
膀胱がんの原因となる発がん性物質
です。
いずれもかつては一般的に利用されていた物ですが
ここまで重い罰則で規制するというのは相当です。
これだけでも毒性の強さがいかなるものか
容易に察せられます。
「違反した者」ですから事業主や使用者、労働者等
に限られませんし、法人、個人も問いません。
こんなもの誰も違反したりしないでしょうが、
試験研究での利用の際に、
万が一にも健康被害が発生しないように
重い罰則で厳密な手続きの履行を
担保しているというわけです。
3:国民年金法111条
おそらく一般の人が知らずに引っかかる可能性のある中で、最も重いのが
この規定でしょう。
国民年金法第百十一条
第百十一条 偽りその他不正な手段により給付を受けた者は、三年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。ただし、刑法(明治四十年法律第四十五号)に正条があるときは、刑法による。
ここまで重い罰則は、健保、厚年、労災、雇用いずれもありません。
他の法律でも不正受給はあり得るのに、
ここだけ極端に重いんです。
国民年金の不正受給は、それだけ国も
目を光らせているということなのでしょう。
4:まとめ
他にも細かい罰則は多数ありますが、
労基、安衛を除くと、本来しなければならない
手続きをしなかった場合や、
行政の調査に協力せず、妨害するような場合が
ほとんどです。
(労基、安衛は、刑法と同じように守らなければ
ならない最低限の規定集なので、
罰則の規定は細かいです)
一般の人は、設けられている罰則に
違反しないように意識するものですが、
専門家である社労士の試験対策としては、
以下のように
罰則が設けられていない場合も、
きちんと判断できなければなりません。
平成26年度安衛択一式問8
労働安全衛生法第29条第2項には、元方事業者の講ずべき措置等として、「元方事業者は、関係請負人又は関係請負人の労働者が、当該仕事に関し、この法律又はこれに基づく命令の規定に違反していると認めるときは、是正のため必要な指示を行わなければならない。」との規定が置かれており、この規定の違反には、罰則が付いている。(正解は×。罰則なし)
平成26年度安衛択一式問10
労働安全衛生法第60条に定める職長等の教育に関する規定には、同法第59条に定める雇入れ時の教育(同条第1項)、作業内容変更時の教育(同条第2項)及び特別の教育(同条第3項)に関する規定と同様に、その違反には罰則が付けられている。(正解は×。職長等の教育には罰則なし)
さらに、最近では罰則で個数問題
(「以下の選択肢のうち、正しいものは
いくつあるか?」と問われるもの)まで
出る有様です。
暗記個所の多い社労士試験ですが、
こと罰則については、特にうろ覚えが許されない箇所として、
出題側も重視している節が感じられます。
要注意です。
>>次回【給与明細の控除保険料はあくまで保険料の「一部」】
>>前回【社労士試験の暗記必須TOP3】
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